超高齢社会における慢性期病棟の現状と課題
こんにちは斎藤です。
ぼくはふしぎ指圧だけじゃなくて、高齢者の訪問リハビリもやっています。高齢者の環境ってけっこう過酷で、横目で見ていてモヤモヤする日々が続いています。
そんなおりに、都市部の慢性期病棟でナースをしているIさんと知り合うことができました。慢性期病棟は家でも介護施設でも世話をしきれない高齢者が多いところです。同じように高齢者周りの仕事をしているIさんは昨今の高齢社会についてどう考えているのか。話を聞かせてもらいました。
—今日はIさんに「超高齢社会における慢性期病棟の現状と課題」ということでお話を聞ければと思っています。ざっくりと、現場で大変なことってありますか?
「うーんそうですね……。そもそも、斎藤さんは、看護師の仕事ってどんなことだと思っていますか?」
—面と向かって聞かれるとわからないですね……看護師さんはお医者さんの手伝い、みたいなイメージがありますが。こういう認識って怒られちゃいますかね?
「看護師は『病気になった人を元の生活レベルに戻す』というのが一番のメインの仕事です。それともう一つの仕事が『治療して回復が見込めなくなった患者さんの苦痛を取り除く』……いわゆる看取りの看護です」
Iさんのフロアでは50人中47人が回復の見込めないいわゆる「寝たきり」の患者さんなんだそうだ。長いと10年単位で寝たきりになっている人もいる。Iさんの仕事もそうした人たちの看取りの看護であるという。
「50人のフロアを夜勤だと2人の看護師で見ていたりしています。それで患者さんを2時間おきに体位交換したりとかして」
—単純に人手不足ですよね。
「病院ってどこもそうだと思うけれども、チョー不足してます。看護師も看護助手も、常に不足してます。ちなみにウチではドクターも不足してます(笑)」
—そんな状態からさらに高齢者は増えるわけで……Iさん的にこれからの日本ヤバい、って思うことってありますか?
「ヤバいですよ。今、第一次ベビーブームで生まれた人たちがちょうど65才くらいになるところです。それで人口における高齢者の割合が25%です。
でも、まだあって。2035年くらいに次の第二次ベビーブームの人たちが来るんです。そのときになると高齢者の割合が33%になるんですよ。今でも大変なのにまだ増えるのかって思いますね。
その人たちも生き続けるので……。2050年までは高齢者は減りません」
—減りません……!(思わず復唱)
「そう、あと35年間高齢者は増えます。疫病でもはやらない限り」
—でも、お年寄りが元気になってもらえていればいいんじゃないですかね? ぼくも毎日リハビリしてますし……
「それはそうですね……。でもやっぱり寿命には勝てません。「死に方」をみんな、日本全体のみんなが考えたらいいと思いますね。生き方のことはみんな考えますよね。病気になってから死ぬまでのことってみんな考えません。
例えば延命措置をどうするかとか。気管切開や胃瘻を行えば寝たきりでも何十年も生きることができます。でも、それでその人らしい生活を遅れているといえるのか。すごく疑問です」
僕にもそういう方のリハビリマッサージ依頼はある。延命措置をしているような人は全く身動きが出来ない。関節が固まってしまう(拘縮という)ことも珍しくない。
拘縮が進んでしまった関節は外から動かそうとしても動かない。その拘縮進行を食い止めるためにマッサージをするのである。ただし、完全に固まってしまった後では効果は薄い。
「QOLって言葉知ってますか?」
—クオリティオブライフ、生活の質のことですよね
「そう。そこについてはみんなよく考えています。でも、どうしてもQOLって考え方だけだと補えない部分があるんです」
—どういうことでしょう?
「『本当にQOLを考えた結果の治療がこれなのか』ってことです。点滴だけ繋がれて、2時間おきに体位交換して、口から物も食べられず、オムツをつける。……寿命が来るのを待つだけです。家でも看れず、介護施設にも行けず、慢性期病棟にいるだけ。そういう人がかなり多いんです」
—もうQOLの概念から外れちゃっている現実があるんだ
「次はどうやって次はどんな風に死の方に向かっていくか……。その方法だと思うんです。最近知ったんですけれども『QOD』って言葉があるらしいんです」
—初めて聞きました。クオリティオブ、デス、かな
「そう、『死に方の質』です。どうやって命を終えてゆくか……そういうことってあんまり聞かないですよね。
きっと、寝たきりの方も、全然身動きできない状態で何十年もの延命治療を望んでいないと思うんですよ……。いや、望んでいる人もいるかもしれませんけどね。大多数ではない気がしています。
自分がわからなくなっちゃう前に、延命についての意思表示はするべきです。そして判断できるための教育も」
—そうするべきなんでしょうね。現代って、医療技術だけが先に行ってしまって、それを受ける方の意識が全く追いついていないと思います。やる意義はわかんないけど、やれることあるんならやります、ってなっちゃっている
「そうそう。ただ、決して高齢者の延命自体を否定したいわけじゃないんです。それは選択肢の一つかなあ、って。でも生き方と同じくらい死に方についても真剣に考えなくちゃいけないって思っています」
正直、僕は軽く見ていたのだ。同じように高齢者周りの仕事をしているIさんに「高齢者周りの仕事って大変ですよね~」「わかる~」みたいな感じで話が進むと思っていた。しかし、慢性期病棟で毎日働いているIさんの意識は、はるか先まで進んでいた。
ただし、これは看護師Iさん一個人の考え方である。Iさんが今回のインタビューにあたって、同僚にも話を聞いてみたら「けっこうみんな考え方が違ってびっくりした」そうだ。
加速する高齢社会。それは一人一人が死について真摯に向き合わざるを得ない未来なのかもしれない。
*本記事は2015年4月1日デイリーポータルZのエイプリルフール記事超高齢社会における慢性期病棟の現状と課題から画像を外して修正したものです
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斎藤充博
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