【ふしぎ指圧ノート第1回】 人は極限までリラックスするとどうなるか
リラックスを目視する
自分の施術がどんな風に効果を出しているか。治療家であればかならず気にしなくてはいけません。
治療家としてはお客さんにリラックスしていてほしい。しかし「リラックスしていますか?」なんて直接的に患者さんに聞いても意味がありません。
緊張している人にそんなことを聞いたら、ますます緊張させてしまうかもしまいます。気を遣うタイプの人だったら、自分がどんな状態であれ「リラックスしています」と答えてしまうでしょう。
治療家は尋ねなくても目で見て「この患者さんはリラックスしているのかな?」とわからなくてはならないのです。
くちびるにわずかな隙間ができる
深いリラックス状態に入ると、人はどうなるか。まず唇を閉じる筋肉の緊張が解けてきます。すると上下の唇の間にわずかな隙間ができます。「口元がゆるんでいる」という状態ですね。
赤ちゃんがすやすやと気持ちよく眠っているときの口元を思い出してみて下さい。まさしくあんな感じです。
これがリラックス第一段階ということころでしょうか。
手指がピクピクと動き出す
次に着目するのは「指」です。さらに深いリラックス状態に陥ると、無意識に人間の指は動き出します。軽く握っていた手が急に開いたり、指がピンと立ったりします。手を握ったり閉じたりを繰り返す人もいます。人によっては足の指が動くこともあります。
こうした動きは無意識がゆえの独特のスピード感を伴っています。たとえば、この記事を読んだ患者さんが施術家に気を遣って、そんなにリラックスしていないのに手を開いたり、指を立てたりするとしましょう(そんなことする人いないと思いますが)。
でもそれはわざとやっていることが一目でわかります。わざとやっている動きは一言で言うと「遅い」。無意識の動きは本当に突然、なんの予備動作もなく行われます。たとえるならば、小動物が突然走り出したり、方向転換するのに似ています。
これをリラックス第二段階です。あ、さっきから第一段階とか第二段階とか言っていますが、僕が勝手にそう呼んでいるだけです。
まぶたがうっすらと開く
最後はまぶたです。リラックスが進むとまぶたがほんの少し開くようになります。
人が眠りにつく時にも同じようにまぶたが少し開くことがあります。なので以前の僕は、「まぶたが閉じている患者さんは眠っている」と思い込んでいました。
ところが違う。この状態でも話ができるんです。このときに出てくる会話は本人がとても素直になっていることが多い。こころの深いところからの発言が出てくることがあるんです。ひょっとしたら催眠術にかかったような状態なのかもしれません。
この時の会話は、できる限り慎重に行いたいものです。ちょっとした一言が暗示のように効いてしまいそうな気がします。試したことはないのですが……。
これがリラックス最終段階です。これ以上進むと、患者さんは完全に眠りに落ちて行きます。
リラックスしてもらうには「リラックスさせようとしない」
深いリラックス状態を作るにはどうしたらいいか。僕が一番大事だと思っているのが「ムリにリラックスさせようとしない」ことです。「リラックスさせよう」という気持ち自体がが、圧になって患者さんにかかってきてしまうのです。
若手のお笑い芸人の人がバラエティ番組に出ると「笑わそう!」という気持ちが前面に出てしまって、見ている側としてはちょっと笑えなくなったりしますよね。あんな感じ。
ただ、リラックスするかしないかは、最終的に患者さんの素質や、その日の状態次第です。施術者が完璧に施術を行ったとしても、それを受け入れるのは患者さんなので。
目をキョロキョロさせているときは警戒心があるとき
では逆に「リラックスしていない」ときはどんなふうになるか。たとえば、目を開けて少し遠くをキョロキョロと見ている。これはけっこう緊張感が高い状態です。「施術者に警戒している」くらいの意識があると思ってもいいでしょう。
こんな状態は避けたいですね。ただ、このくらいの状態でも治療効果はちゃんと働くようです。施術後には肩こりが軽快したり、腰痛がやわらいだり、関節の可動域がしっかり上がったりしています。
深いリラックス自体に価値がある
それでは「深いリラックスに意味はないの?」と思われるかもしれません。でも僕は施術というのは、「深いリラックス」に入れることにそのものに価値があると思っています。
あの起きているような、寝ているような、その半分くらいが続く感じ。空間が歪んでいるようなヘンな錯覚を覚えることもあります。
このあたりのワンダーが施術の醍醐味だと思うのです。
斎藤充博
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