【ふしぎ指圧ノート第2回】 いい指圧とはなにか
ゆっくりやるのがいい指圧
いい指圧とはなにか。施術者はなにを目標に指圧を磨くべきか。施術スタイルによって千差万別だと思いますが、僕の中には明確に基準があります。
それは、できるだけ「ゆっくり」やること。もう少し細かく書くと、こんな感じです。
・できるだけ時間をかけて圧を入れる
・できるだけ時間をかけて圧を抜く
・この時の圧を「入れる」「抜く」スピードは一定が望ましい
これは指圧の専門用語で「圧の漸増漸減」と言います。
ほとんどの人は「ゆっくりとした圧」を入れてもらったことがないですよね。そもそも「ゆっくりやるのがいい」という発想があるのは、浪越の学校で指圧を専門的に学んだ人だけです。普通の街中のマッサージ店や整骨院では、その概念すらないでしょう。
ゆっくりとした指圧をすると、それだけで人はリラックスします。前回このマガジンで「リラックスの状態」について書きましたが、あの状態に入りやすくなるのです。
ゆっくりした指圧は泥に沈むように入る
ゆっくりとした指圧をすると、筋肉が固くなっているところにも指が深く入るようになります。田植え時期の田んぼにると、自分の身体の重みで泥に足がじわじわと沈んでいきます。ゆっくりとした指圧はあの感じに一番近いです。
筋肉が固くなっている部分に、もし素早くて深い圧を入れようとすると「痛い指圧」になってしまいます。もっとも、これはこれで「指圧を受けた感」が生まれるのですが、あまりよくはないですね。ジャンクフードのように、クセになるけれども、身体に対しては過剰な刺激だと思います。
世間一般に「指圧は痛い」というイメージがあると思います。それは多分ここから生まれているのでしょう。痛い指圧は本来の指圧とはちょっと違うので、そういうイメージが強いことは残念なことです。
ゆっくりとした指圧はむずかしい
こんなふうに「ゆっくりやる」ことはとてもいいんです。僕は「指圧をやる人の中でも一番ゆっくりやるくらいになりたい」という目標を持っています。
ところが、ゆっくり指圧をやることはものすごくむずかしい。そもそも人間がゆっくり動くというのは大変に高度な技術なんです。
太極拳って見たことありますか? 太極拳の先生は、ゆっくりとした動きを軽々と行っています。一見かんたんそうに見えますが、真似しようとしても全然できません。人がゆっくり動くには、全身に意識を張り巡らした上での協調性が必要なんです。
試しに、できるだけゆっくりと時間をかけて歩いてみてください。たぶんほとんどの人がまともにはできないのではないでしょうか。むしろ「自分は普段どうやって歩いていたんだろう?」って混乱してしまうと思います。
ただ動くだけでも大変なんですが、「ゆっくりと他の物に力を加えてゆく」というのは難易度がさらに増します。これはもう、本当にむずかしい。
少しずつ精度を高めていく
施術のたびに「もうちょっと腰の角度を変えた方が安定するかも?」とか「もうちょっと手首を返した方が腕全体の遊びがなくなって腰の力を伝えやすいかも?」とか延々やっています。
僕は指圧の学校を卒業して7年経ちますが、まだまだ改善の余地があります。この部分は一生かけて高めてゆく部分なんでしょうね。
でも疑問なのは高めていったとしても、お客さんは果たしてどのくらい気づくのか、ということ。「ひょっとしたら僕のただの自己満足なのかも……」という気持ちがぬぐいきれません。
ただ、ここの部分を諦めてしまったら、僕は自分が施術である意義が完全に無くなると思っています。「自己満足なのかも……。いや絶対のこの方がいいはず!」とグラグラしながら施術をしているんです。疲れますね。自分の性格の問題ですが!
斎藤充博
最新記事 by 斎藤充博 (全て見る)
- 4月10日「小杉湯となり」で1日だけ施術をします - 2020年3月24日
- 【ふしぎ指圧ノート第2回】 いい指圧とはなにか - 2019年10月15日
- 【ふしぎ指圧ノート第1回】 人は極限までリラックスするとどうなるか - 2019年9月30日